◎キッズ・ミート・アート(大阪市天王寺区)

活動および実施期間:2013年〜
主催:NPO浄土宗應典院、パドマ幼稚園、應典院寺町倶楽部
http://www.outenin.com/


【どんな社会的課題に対して】

・子どもたちに、成果や達成目標を設定しない学びを体験させる。

保育や教育等の現場では、年齢や学年に応じて理解度や達成度が測られる。そのため成果や目標に達成していない場合は評価されにくい。また理解度を測るためある程度の正解が設けられるため、多様な価値観が育ちにくい。

 

【アートのどんな手法でアプローチして】

さまざまな文化・アート事業を行う浄土宗應典院と、系列の幼稚園が主体となって行う「キッズ・ミート・アート」は、「子どもとおとなが一緒に楽しむ創造の場」をテーマにしたアートフェスティバル。お寺と幼稚園を会場に、芸術家によるパフォーマンスやワークショップを開催する。
福山市立大学の弘田陽介氏から提示された「保育の外のアート」という考え方をもとに、一般には保育や教育の現場では行われない現代アートも含んだ内容で展開。目的を定めず、アーティストの表現をどう捉えるかを子どもたち自身に委ねている。学校教育とは異なり、そこで生じる違和感やズレ、逸脱も否定しない。

 

【どんな問題を乗り越えて】

キッズ・ミート・アートを行うにあたって、全く異なる価値観を持つアーティストと仏教者、NPOスタッフ、教育者との協働の中で、お互いの「常識」や「共通言語」が全く異なることで、実行に移す過程の細かな部分の打ち合わせ等で、齟齬や理解しづらいことが多々あった。しかし、それを「面白い!」と反転させて考えることや、お互いの対話の時間を十分に取り、コミュニケーションを深めて、「なるほど、そういう考えもあるね!」と認め合い、異領域同士の「越境」を楽しみあうことにして、乗り越えた。

 

【どんな結果に至ったか】

人と同じことが求められがちな社会において、子どもたちは多様な価値観があることを知り、またその価値観を受け入れてもらえる経験ができる。また保護者にとっても、「人と同じでなくてもいい」という価値観に触れることで、子どもそれぞれの個性や可能性に気づくことができる。アーティストであるおとなが子どもたちの表現の柔軟性や研ぎ澄まされた感覚の妙に気づき、自分たちの表現領域を拡げたり、表現手段を新たに見出したりすることもあった。おとなが教える、おとなが授けるという常に教育現場で見られる「おとな→子ども」の教育機関で良く見かけるベクトルから、「子ども→おとな」への学びや気づきのベクトルが働いていたのが面白い部分であった。また、お寺での開催という場の持つチカラから、「生死」に関係するプログラムをアーティスト側が自然と用意する結果となった。お寺が持つ「潜在的な死生観醸成」の場がアートの現場でも通用することに驚いた。

 

 

 

 

 

 


田中やんぶ氏による「子どもお練り供養」。子どもたちは二十五菩薩のコスチュームを身にまとい、念仏を称えながら練り歩いた。