◎釜ヶ崎芸術大学(大阪市西成区)

活動および実施期間:2012年〜
主催:NPO法人こえとことばとこころの部屋
http://cocoroom.org/


【どんな社会的課題に対して】

・高度成長期を支えた日雇い労働者の現在

大阪市西成区にある、通称「釜ヶ崎」はと呼ばれる地域の端にあり、あいりん地区とも呼ばれ、日雇い労働者の簡易宿泊所や寄せ場が多い地区。あいりん地区とも呼ばれる。日雇いの仕事で暮らしが安定せず家族を持たないまま年を重ねた、かつての高度成長期を支えた労働者が暮らしており、失業、貧困、孤立、高齢化など、多くの課題が山積している。

 

【アートのどんな手法でアプローチして】

釜ヶ崎芸術大学(以下、釜芸)は、NPO法人こえとことばとこころの部屋(以下、ココルーム)が主催。ココルームは釜ヶ崎で「喫茶店のふり(現在はゲストハウスのふり)」をして場を開き、そこに舞い込んでくる課題や問いにさまざまな表現でアプローチを行っている。釜芸は仕事も家族もなく、行き場もない人たちに学びや表現の機会を作ること、また釜ヶ崎がこれまで培ってきた助け合いのしくみや知恵を学ぶことを目指して開講された。
キャッチフレーズは、「学びたい人が集まれば、そこが大学になる」。まち全体を大学に見立て、市民会館や公園などを会場に、アーティストによるプログラム(ワークショップ)を年間約100講座実施。希望者は誰でも無料やカンパで、音楽や絵画、写真、詩など、さまざまなプログラムを受講できる。

 

【どんな問題を乗り越えて】

釜芸の受講料は、カンパまたは無料のため、活動の費用の確保のため寄付や助成金を活用。
詩人の谷川俊太郎さんを招く、オペラのワークショップを通してホームレスの人々と社会とつなげるイギリスのアート団体「ストリートワイズ・オペラ」とともに、釜ヶ崎のおじさんたちと作品をつくるなど、メディアで話題になるプロモーションを積極的に実施している。またスタッフの給与を安定して得るために、2016年にはゲストハウスを開業。

 

【どんな結果に至ったか】

釜芸で「芸術」の講座を担当していた美術家・森村泰昌さんから声がかかり、「ヨコハマトリエンナーレ2014」に参加。必要な費用をクラウドファンディングで達成し、釜芸のメンバーやスタッフなど総勢50名で横浜まで赴いた。そのほか大阪大学との共同で「釜芸in阪大」を行うなど、釜ヶ崎以外にも発表の場が広がっている。
釜ヶ崎で活動を始めてからアート界隈との交流は少なくなっていたが、「社会とアート」の関わりに注目が集まる今、アートをアートの世界だけに閉じ込めず、社会との関わりを意識しているココルームの取り組みに関心が寄せられている

 

 

 

 

 

 

 


『釜ヶ崎芸術大学2013報告書』(向かって右)の表紙には、谷川俊太郎さんの詩「釜大に寄せて」が掲載されている。

 

 

 

 

 

 

 

釜芸の講座スケジュール。プログラムは天文学、哲学、美学のほか、狂言やオーケストラ、ジャワ舞踊まで多彩。