◎Art-Labox(大阪市阿倍野区)

活動および実施期間:2016年~
主催:特定非営利活動法人コーナス
http://corners-net.com


【どんな社会的課題に対して】

・知的障がいのある若者が、自分らしい仕事や働き方を見つける

特別支援学校の高等部を卒業した知的障がいのある若者の多くは、進学せず、卒業後すぐ就労している(文科省によると福祉施設や企業への入所・就職が90%以上を占め、大学などへ進学するのはわずか0.4%。)。しかし卒業からすぐ社会に出るという状況は心理的な負担が大きく、また自分にあった仕事・やりたい仕事を見つける時間が十分でないケースも多い。

特別支援教育資料(平成28年度) 第一部集計編1(7)2.

 

【課題へのアプローチ】

この課題に対し、コーナスでは、知的障害をもつ人は普段から制約を受けて生きていると考え、制約のないアート活動の経験を通じて、「自分で選択する」「考える」「仲間と交わる」ことを育むため、社会に出るまでの準備期間をサポートする自立訓練のための学校「Art-Labox」を開設。1820歳の若者を対象に2年間、自分の将来のことをゆっくり考える時間をつくることで、社会や就労へとつながる準備とする。

Art-Labox」では、自立性や社会性を育む生活プログラム(衣・食・住・ソーシャルコミュニケーション・マナー等)と、多彩な講師によるアートプログラム(絵画・立体造形・写真・音楽・ダンス等)を実施。スポーツ施設や図書館などの公共施設、神社やお寺、公園、地域のお店など街に出て、社会見学や野外活動を行い、社会の中で生活することの楽しみを見つける取り組みも行う。2年目には卒業展を開催。仲間とともに協力しながら、コーナスの学校で経験したことや学んだことを発表する。

 

【どんな問題を乗り越えて】

開設までには、次の3つの問題点があった。

一点目は、自立訓練事業を実施しているところが少なく、事業内容が理解されにくかったこと。この課題に対しては、大阪府下全域の支援校へ挨拶文や説明会のビラ郵送し、阿倍野区の近隣および通学圏の支援校を訪問。進路指導担当教諭に説明をした。

二点目は、保護者・支援校とも、卒業後のコースをほぼ決めている場合が多く、自立訓練が選択肢に入っていなかったこと。そのため5月に説明会を2回、78月に講師によるワークショップと説明会を4回開催。ワークショップに参加した方や、就労させて良いのか悩んでいた保護者の方が、入学を決めるというケースに至った。

三点目は、保護者にとって自立訓練終了後の進路が不安であったこと。進路については3か月ごとのモニタリング会議において、本人・保護者の希望をヒアリングし、何カ所かの就労移行事業所や通所施設を訪問。2年目よりArt-Laboxとの並行利用などを行い、修了後につないだ。

 

【どんな結果に至ったか】

公共交通機関で通学できるようになり、親に委ねていた食事づくりや買い物などの生活体験で料理に興味を持ち、仲間と行動することで他者と折り合いをつけられるようになるなど、生活面の成長も見られた。講師によるアートプログラムでは、芸術や文化を体感し、余暇活動への楽しみも見出している。

20173月には、2年間のカリキュラムを終えた生徒たちによる第一回目の展示会を開催した。アートプログラムで学んだ「書・写真・平面立体作品」などの作品展示をするため、ギャラリー内のペンキ塗りや掃除を全員で行い、案内状も各自が家族や友人などに発送。展示期間中は在廊し、来場者に自らの作品の解説も行った。

修了式では式の準備・送辞・答辞・来客の案内をすべて12年生で行い、その成長ぶりに涙する保護者の姿も見られた。発語が少なかった人も次第に会話が増え、友達ができるなど、さまざまな活動や行事を通して仲間意識や自信が生まれている。修了後の進路は、就労移行事業所、生活介護事業所、自立訓練事業所継続など。2年にわたるきめ細やかなケアと多彩なプログラムを通じ、生活面での自立はもちろん、自己肯定感を高め、将来への楽しみや希望も描き、社会への第一歩を踏み出している。

 

 

 

 

 

 

ギャラリーコーナスにて開催された、第1回目のArt-Labox展のフライヤー。

 

 

 

 

 

 

 

 

築80年の古民家を改装したアトリエは、誰もが気軽に訪れることのできる、地域に開かれた場所。