
『社会のためのアート』ってなに?
アートやクリエイティブの力を、どう社会のために活かすのか。
その答えはひとつではなく、さまざまな考え方・捉え方があります。
「社会のためのアート」について、大阪アーツカウンシルにお聞きしました。
大阪アーツカウンシル
2013年大阪府市文化振興会議(審議会)の部会としての位置付けのもと、大阪の文化施策を推進する新たなしくみとして、行政と一定の距離をおき、芸術文化の専門家による評価・審査等を行う機関として発足された。舞台芸術や美術・デザイン、演劇、ダンスなどさまざまな分野の専門家が集まり、行政への提言を行いながら、都市文化の歴史を受け継ぎ、未来へつなぐ環境づくりに貢献している。
社会のためのアートとは

アートには人々の感性を刺激し、変化を起こす力があります。食物が身体の栄養ならば、アートは心の栄養。創造や鑑賞の機会は衣食住と同じぐらい大切な基本的人権だと大阪アーツカウンシルは考えています。
いま、日本各地で芸術祭が人気です。アーティストの創造が地域の持つ潜在力と共振し、新たな魅力を提示していることが大きいでしょう。外からの鑑賞者を引きつける経済効果、人々が自分の暮らす地域に新たな誇り(シビック・プライド)を持ち、コミュニティーの活性化につながる効果も注目されています。
「社会のためのアート」とは、アートを創造と鑑賞という枠にとどめず、その力を様々な社会課題に向き合う「ビタミン剤」として生かす試みです。アートは社会課題を解決できる万能薬ではないけれど、人々に気づきをもたらし、相互理解を深め、生きる意欲を高める力はなかなかのものです。
アートに有効性ばかりを求めてはなりませんが、社会に対してアートがどんな力を持つのか、その可能性を広げることは21世紀の文化行政の大きな使命だと思います。
佐藤千晴(元大阪アーツカウンシル統括責任者)

アートには人を変える力があるのは周知の事実ですが、果たして社会を変えるほどの力があるのかと疑問に思う方も少なくないはずです。 実際には「社会のためのアート」は世界に多くあり、中でもベネズエラの音楽教育制度エル・システマは著名な成功例の一つです。
提唱者であるホセ・アントニオ・アブレウ博士は「貧困や暴力から子どもたちを救うのは音楽だ」という強い信念のもと、音楽教育に情熱を注ぎ、多くの人や公的機関を巻き込みながら長い時間をかけて成功へと導きました。
アートがもたらす力は、一般的な指標では測ることが難しく曖昧なものと考えられがちですが、博士はアート(音楽)こそが唯一の力という確固たる考えを周囲に説き続けたのです。
大阪でも「社会のためのアート」に関わるアーティスト、ディレクター、プロデューサー、関連職員の皆さんが、アブレウ博士に倣って情熱と理念の両方を持って臨めば、きっと力強く育っていくと期待しています。
山川徳久(毎日放送事業局チーフ・プロデューサー、元大阪アーツカウンシル専門委員)

「社会のためのアート」とは、あなたのためのアートです。なぜなら、あなたも私も社会の一部なのですから。でも、「私のためのアート」とはちょっと違います。
「社会のためのアート」とは、あなたに届くこと、届けたいと願うことから始まります。そのために、アーティストやアートプロデューサーはあなたのことを一生懸命に知ろうとします。好きなこと、得意なこと、人生の痛みや悲しみにもそっと触れることもあります。そして、彼らはあなたの中にアートという水滴を垂らし、さざ波を立てます。あなたの得意が色や形になったり、あの時の悲しみが音楽になったり、この痛みが演劇になって、誰かに届いていく。さざ波が収まれば、いつもの毎日に戻るかもしれません。ですが、波紋がより大きな波紋を呼び、以前とは違う日々を暮らすあなたになっているかもしれません。
「社会のためのアート」は、あなたと私が今、ここに生きていることを確かめあうアートです。あなたがいてくれて良かったと、喜び合うアートです。「私」だけではできないアートなのです。
山下里加(京都造形芸術大学教授、元大阪アーツカウンシル専門委員)

「芸術のための芸術(L’Art pour l’art)」という言葉があります。芸術の価値は何らかの道徳や教訓的な目的に奉仕することではなく、それ自体に価値があるとするスタンスで、長らく“芸術とはそういうものだ”と考えられてきました。
ここ20年ほどの間に、社会性を志向するアートが存在感を強めています。アーティストが地域で住民と一緒に作品をつくるアートプロジェクトやワークショップが盛んに行われ、また福祉やまちづくりなどの現場での創作・発表活動も増えてきました。地域や社会を志向するこうした取り組みは、アートの側にも「芸術性の放棄」ではなく、「他者との出会いによる創造性の発揮」として、前向きに捉えられるようになってきています。 しかしながら「社会のためのアート」のための環境は、まだまだ未成熟です。
アーティストが取り組む課題は福祉・医療・まちづくり・産業などの分野に広がっていますが、それぞれの課題に寄り添う行政側の担当者が文化セクションと協働し、アーティストを信頼しなければ、アートの力が活かされることはありません。つまり「社会のためのアート」が広がっていくためには「やわらかい行政機構」が必要なのです。
そんなコラボレーションをどう生み出していくのか。難しい取り組みですが、このサイトがそのヒントになることを願っています。
山納 洋(大阪ガス(株)近畿圏部 都市魅力研究室長、元大阪アーツカウンシル専門委員)

「社会のためのアート」と聞くと、ちょっと身構えてしまう。「社会」が何をさしているのか、わかるようでいて漠としているから。そして、「社会のための」と聞くと、世の中の役に立たないと意味がないと、暗に言われている気持ちになってしまうから。
そこで、どうしたら「社会のためのアート」という視点と、リラックスして向き合えるのかを考えてみた。ひとつには、社会という言葉が想定している具体的な「人」をイメージすることだ。社会を構成するのは人だから。
もうひとつは、具体的に思い描かれたその人たちが「〇〇する(ための)」という、具体的なアクション部分を明らかにすること。たとえば、「子育てで日頃アートを楽しむ時間を持ちにくい親御さんが、子どもと楽しく参加できるダンスワークショップ」とか、「緩和ケア病棟の患者さんのQOLの向上につなげるアートプログラム」と聞くと、ぐっと「誰のため」かが見え、その活動に思いを馳せることができる。
社会のためのアートとは、誰かの―とりわけ、何かしらの難しさと向き合っている誰かのアクションにつながるアートということなのだろう。
若林朋子(プロジェクト・コーディネーター、元大阪アーツカウンシル専門委員)
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