藤江 徹(ふじえ いたる)

あおぞら財団(公益財団法人公害地域再生センター)事務局長・技術士(都市及び地方計画)。神戸大学大学院自然科学研究科前期博士課程修了。

2013年から毎年秋に開催している「みてアート(御幣島芸術祭)」事務局代表。JR御幣島駅を中心とした地域の住宅・店舗・工場・公共施設・道路など、まちの様々な場所にアート作品を展示し、市民の交流の機会をつくりだしている。

 

参加者みんながアーティスト。それがまちの魅力につながれば。


それぞれの人が考える「アート」や「表現」を。

——まずは、「みてアート(御幣島芸術祭)」を主催されている「あおぞら財団」について教えてください。

あおぞら財団は、公害訴訟の和解金で設立された団体です。西淀川区は、高度経済成長を支えた産業地域でしたが、同時に大気汚染が深刻化し、「公害のまち」とも言われました。地域再生事業のひとつとして、「みてアート」を開催しています。

 

——かつての「公害のまち」を、アートの力で元気にするフェスティバルという感じでしょうか。「みてアート」の具体的内容について、お伺いしてもいいですか?

そうですね。まちのあちこちにアート作品を展示したり、手作り雑貨の販売や音楽ライブ、ワークショップ、スタンプラリー、フードコートの出店なども行っています。できるだけ地域の「ものづくり」とつなげたいとも考えていて、工業団地の工場からお借りしたドラム缶に絵を描くドラム缶ライブペイントは毎年人気の企画です。2016年は全体の参加者数が延べ2200人、展示拠点は30箇所でした。年々盛り上がってきていると感じています。私は「アート」をちゃんとわかっている人間ではないので、「アートと言い切っても大丈夫?」と少々不安を覚えながらやっていますが(笑)。

 

—始めたきっかけをお伺いしてもいいですか?

もともと駐輪場だった事務局ビルの1階部分を自分たちで改修した際に、「まちの中のうまく活用されていない場所に光を当てたいね」という話になったのがきっかけです。そのためには、何か見方を変える必要があるのではないか、アートならそれができるのではないか、という思いから始まりました。

 

——みてアートでは、「アート」の範囲はどう捉えているんでしょうか?

参加希望者には「何かアートっぽいことをやってください」というお願いをしているくらいで、特に定義づけはしていません。それぞれの人が考える「アート」とか「表現」であればOK。質をどう保つかという部分は気にしていますが、出品者も、見に来る人の反応を考えてくれているのを感じますし、来てくれる人が少なければ「次からはこうしよう」と学んでいると思いますね。

 

——いい「発表の場」なんですね。 参加型のイベントも多いような気もしますが、いかがでしょう?

はい。来た人が一緒に何か作品を作るような企画が増えていますね。地元の人が楽しんでいないイベントに外から人は来ないだろうということで、まずは地元の人が参加して楽しもう!という風になりつつあります。基本的には、参加している人みんながアーティストで、自分たちの表現ができるようになったらいいな、ということなんです。それがまちの良さにつながっていくといいですよね。

藤江 徹|みてアート(御幣島芸術祭)事務局長

都市計画コンサルタントとして、東京や九州でまちづくりの仕事をしてきた藤江さん。縁あって、故郷・大阪に戻ってきた。「いろんな人と協力しながら、西淀川や大阪をええまちにしたいと願っています」

 

 

やりたい人が、できることを、自由に。

——運営はどのような形で行っているんですか?

事務局はあおぞら財団ですが、実行委員会と運営会議があり、地域のみなさんがそれぞれできることをボランティアで受け持ってくれています。協賛は増えてきていますね。プログラム冊子には昨年から広告欄も設けていますが、印刷代を賄うくらいです。大阪市の芸術系助成金も申請しています。場所と材料があっても、それをどう表現活動にするかは素人だけだとなかなか組み上がらないので、本当はもっとアーティストの方を呼べたらいろんなことができるのでは、と思っていますが、なかなかそこまでの余裕がないです。

 

——展示拠点や連携企画がたくさんありますが、広報などは事務局が取りまとめているんですか?

何もかもを事務局でできるわけではないので、基本的には応募があったところをそのまま受け付けてプログラム冊子には載せ、あとは自由にやってくださいという感じです。アイデアは、責任を持ってやってくれる人がいるならばぜひやろう、と。隠れた場所に光を当てるという意味では、その場所に合ったものをアートで表現してもらうのがベストなんですが、それには時間もお金もかかります。「ここを好きにしていいよ」という場所とスポンサーがセットだったら、一番いいと思うんですけどね。

藤江 徹|みてアート(御幣島芸術祭)事務局長

御幣島駅近く、駐輪場だった事務局ビルの1階部分を自分たちで改修した「あおぞらイコバ」。地域交流スペースとして貸出もしている。

 

 

関わるきっかけや思いは人それぞれ。

——どんな思いで取り組んでいらっしゃるかを伺ってもいいですか?

人によってばらばらですね。「何か面白いことがやりたい!」と思っている人もいれば、具体的に「この場所でこういうことをやりたい」と思っている人もいる。発表の場ができたらいいとか、まちが元気になったらいいとか、きっかけも思いも本当に人それぞれです。僕は、何か楽しいイベントをやることで、つながりが生まれたり、関係が深まったり、場所の使い方が新しくなったりするといいな、という思いですね。

 

——やっていて、目指していたことが実現した!といったようなエピソードはありましたか?

歌島橋交差点地下通路に写真を飾るためのスペースがもともとあったんですが、実際には使われていなかったんですね。みてアートでそのスペースを使ったことがきっかけになり、イベント終了後も近くの学校の生徒さんの作品を常設展示するようになりました。本当はもっと地域の「ものづくり」とつなげていきたいんですが、具体的に何かができたりというのは、まだまだこれからだと思います。

藤江 徹|みてアート(御幣島芸術祭)事務局長藤江 徹|みてアート(御幣島芸術祭)事務局長

事務局に保管されている昨年のドラム缶アート(写真上)。ドラム缶に好きな絵を描くワークショップは、毎年恒例の人気企画となっており、2016年はプログラム冊子の表紙写真にも登場(写真下)。

 

文化事業には、時間をかけて取り組んでほしい。

——大阪市の文化芸術行政について何か思うことなどありますか?

西淀川は端っこなので、市の文化事業に関わっている実感がない。「真ん中ばっかり」とは思います。もっとそれぞれの場所で、文化事業のための予算を取ってほしいですね。行政は、担当者が数年で入れ替わってしまうので、せめて文化的なことをどうつくっていくかは、各区で方針として決めて持っておいた方がいいと思います。文化事業は1年やそこらでできるものではない。やはり専門家のアドバイスなどを入れて、少しずつでもいいから形にして、少なくとも3~5年くらいかけてじっくり取り組んでもらいたいです。

 

——みてアートが、ゆくゆくはこのくらいの規模になればいいな、といったようなビジョンはあるんですか?

とりあえず10年くらいはやってみて、どうなっていくのかを見守ります。最終的には、多くの人が自分の作品を自分の家の前に飾って、それをみんなで見て歩く日という感じにできたら面白いですが、そうなるにはもっと認知度上げる必要がありますよね。近年アートの街として活気づいているNY・ブルックリンの下町ブッシュウィックでは、年に一度街中を自由にアートギャラリーにしてしまうお祭りがあるらしいんです。それを真似て、10年後くらいには「その日一日、みんながアートをする日」というのが定着したらいいなと思っています。

藤江 徹|みてアート(御幣島芸術祭)事務局長