宮本 典子(みやもとのりこ)
アートマネージャー・アートコンサルタント
大学で建築設計を学んだ後、現代美術ギャラリー勤務を経て、2011年にoffice Nを設立。

毎年夏に大阪で行われている現代美術のアートフェア「ART OSAKA(アートオオサカ)」事務局を担う。2016年からは東京でも「ART in PARK HOTEL TOKYO」を開催。また、大阪府内の障がいのあるアーティストをマーケットに紹介するプロジェクト「capacious」にも携わる。

 

もっと多くの人に、文化を支える「当事者意識」があれば。


現代美術のアートマーケットと人々をつなぐ。

——ART OSAKAに関わることになったきっかけをお伺いしてもいいですか?

以前勤めていた現代美術のギャラリーがART OSAKAの発起人だったので、ギャラリーの仕事をしながらフェアの仕事にも関わってきたというのが、きっかけです。多くのギャラリーとの調整をする中で、中立的な立場で関係者をつなげる役が必要だと感じ、フェアの事務局をそのまま引き継ぐ形で独立しました。

 

——アートフェアの事務局以外の事業や活動についても教えてください。

今年の7月に「Osaka Gallery Map(オオサカギャラリーマップ)」という、大阪の現代美術企画ギャラリーを紹介するWEBサイトをオープンしました。これは、ART OSAKAが今年、開催15回目だったことを記念して立ち上げました。海外からの観光客も増えていますし、ハイクラスホテルのコンシェルジュの方にも喜んでいただいています。

 

—福祉関係のプロジェクトにも関わっていらっしゃるとお聞きしています。

「capacious(カペイシャス)」という、大阪府内の障がいのある方が制作する作品をアートマーケットに紹介するプロジェクトにも携わっています。マーケットの仕組みが分かり、福祉の世界とつなげていける人間が求められているということで、私自身、新しい分野への挑戦でした。もちろん社会的に必要だと思ってのことなので、やりがいを持って取り組んでいます。

 

宮本典子|アートマネージャー・アートコンサルタント

「特別な理由があったわけではなく、自然な流れで、今の仕事にたどり着きました」と宮本さん。

 

 

日本のアート業界は、きっともっと発展できるはず。

——宮本さんが現代美術に興味を持たれたのはなぜだったんですか?

もともとは建築設計の勉強をしていました。建築をやりながら、美術に対する憧れがあったという感じでしょうか。「空間」というものに興味があったんですね。ギャラリーの空間もすごく好きで、仕事として関われたらいいな…というちょっとミーハーな気持ちでした。働いてみたら、あぁこんなに忙しい仕事だったのか、と思いましたが(笑)。

 

——それでも、これだけ精力的に美術の仕事を続けていらっしゃるのは、どんな思いやビジョンがあってのことなのでしょうか?

アート業界で働き始めた当時は、建築の世界と比べて、日本のアートの業界はどうしてこんなに未発展なんだろうと感じていました。人材も少ないし、動くお金も少ない。ほとんどのギャラリーは個人商店のようなもので、本当にいろんなことを手弁当でやっています。アートフェアをやるのは、みんなでまとまって何かひとつのことをやる必要性と可能性を感じているからという面もあります。ギャラリー間の情報共有や交流がより活発に行われれば、現代美術がもっと人々の身近なところに降りてくるんじゃないか、という思いもあります。いつになれば報われるのかと、果てしない気もしますが、大きな流れの中では絶対の必要性を感じているので、そういったところにやりがいを感じているのだと思います

 

——宮本さんの感じているアート業界の課題について、海外と比べるとどうなんでしょうか?

全然違いますね。海外のアートフェアは、運営もすごくプロフェッショナル。お金のかけ方も違いますし、企業も現代美術に関わる社会的意義を見出してか、たくさん協賛についています。自治体や国を挙げてサポートしているところもあり、若手作家のためのプログラムをつくっていたりもします。比較すると、日本のシステムの未発達さをすごく感じますね。日本のアーティストは国際舞台で活躍しようと思うと、そのような支援のある国で活動するアーティストと同じ土俵に上がらなければならないので、本当に大変だと思います。

 

宮本典子|アートマネージャー・アートコンサルタント

作品の展示だけでなく販売も行うアートフェアは販売するため商行為と捉えられ、会場費が高くつく、文化系の助成金がもらえないといった難しさがある。「商行為という面もありますが、一方でとても文化的な催しで、関西で現代美術が発展していく一翼を担っていると思ってやっています」

 

 

文化を継承していくために必要なものとは。

——大阪の芸術事情に対しては、どう感じていらっしゃいますか?

以前、大阪府の現代美術のコレクションをデータベース上で見る機会があったんですが、その時にびっくりしたのが、2000年代以降のコレクションがほとんどないんですよ。それまで大阪府立現代美術センターが担っていた、公募展や新進作家を紹介する展覧会などを通じた作品収集を止めたのが、理由のひとつだと思います。このまま蓄積が止まっていってしまうと、何十年後かに振り返った時、今のこの時代の作家さんたちがなかったものにされてしまう。それはまずいし、ショックというか、非常に悲しい。お金がない時に、それでも文化を蓄積していったり、作家が活動を続けていくためのことを考えないといけないな…と思います。そういった「当事者意識」がもっと多くの人にあってもいいのかなと考えたりします。

 

——去年の事業※で、「大阪は芸術文化を育てる土壌がない」「アートにお金を出す傾向がない」という意見があったのですが、宮本さんはどう感じておられますか?※平成28年度地域等における芸術活動促進事業

土壌がないというのは、主に行政のサポートのことだと思うんですよ。大阪は、若手作家のためのプログラムがなくなってきているので、かつての「キリンアートアワード」や、ドイツの姉妹都市と若手作家を送り合うプログラムとか、そういうものがまずは必要なのではないでしょうか。

宮本典子|アートマネージャー・アートコンサルタント

宮本さんの事務所office Nが入っているのは、中央区上本町西にある《上町荘》。ヴィンテージ感を活かしたリノベーション物件で、クリエイティブな仕事をする人たちのシェアオフィスとなっている

 

 

アートを買うことが、特別じゃなくなっていくといい

——大阪の一般のアートマーケットというのは、どうなんですか?

ART OSAKAに関わり始めて10年くらいですが、その中での体感で言うと、普通の人がアートを購入することが広がってきている感はありますね。それはすごくいい流れかなと感じています。

 

——ART OSAKAの取り組みがそういう人を増やしてきたという部分もあるのではないでしょうか。

そう言ってくださるととてもうれしいです。徐々に、アートを買うことが特別じゃなくなってきているというのが、いいですよね。結局そこだと思うんです。行政にお金がなくなった時でも、人々が、同時代のアーティストの作品を応援の気持ちで買えるようになって、少しずつ支えていくことは必要だと思います。また民間企業の中からも、関西の美術文化を育てていこうというスポンサーが現れるといいなと思っています。

 

——大阪の文化政策について、もっとこうだったらいいな、みたいな思いは何かありますか?

先日、新美術館の学芸主任の方のお話を聞く機会があったのですが、まだ決定事項ではなくアイディアレベルのようでしたが、若手・中堅作家の展覧会を見せていけるようなプログラムのお話をされていたので、そういったものがひとつでも増えていくといいなとは思いますね。もっと具体的なことを言えば、ART OSAKAは大阪市の観光的・文化的な魅力になっていると思うので、経済的な支援は難しくても、何か広報的なサポートをしていただけたらありがたいなという思いはあります。Osaka Gallery Mapに関しては、大阪市への働きかけはこれからなんですが、海外からの観光客の方々にも必ず役立つと思うので、ぜひ観光案内所などにフライヤーを置かせてもらうなどできたらいいですね。

宮本典子|アートマネージャー・アートコンサルタント

宮本典子|アートマネージャー・アートコンサルタント今年7月にリリースされたOsaka Gallery Mapのフライヤー(写真上)「11月には、ギャラリーツアーも予定しています」と宮本さん。(写真下)