重田龍佑(しげた りゅうすけ)

大阪市立芸術創造館 館長/ARTCOMPLEX ディレクター
京都出身。「アートを切り口に新しい価値観を創造する」をテーマに、ARTCOMPLEXグループのディレクターとして数々のアートイベントのディレクションを務める。舞台監督や舞台美術などで多くの劇団やカンパニーに携わった経験を活かし、複数の劇場・文化施設の運営や企画製作も担当。また行政とともに地域活性化事業や市民参加型事業など数々のプロジェクトを手がけつつ、若手アーティストの支援や育成など、文化芸術を取り巻く環境作りにも積極的に取り組んでいる。

 

多くの人に、文化芸術との幸せな出会いをしてほしい。


表現を目的とする活動の支援に特化した施設。

—−まずはじめに、大阪市立芸術創造館の概要や、業務の内容についてお聞かせください。

芸術創造館は2000年に、演劇・音楽・ダンスなどの練習や発表を支援することを目的にオープンした大阪市の施設です。体育館やコミュニティ施設とは違い、芸術表現を目的とした活動を支援している点が特徴です。2006年より指定管理者制度が導入され、京都にある我々の会社(ARTCOMPLEXグループ)が、指定管理者として管理運営をおこなっています。僕は2015年まではスタッフとして、2016年からは館長を務めております。
僕らが大切にしているのは、施設の管理ももちろんですが、活動のバックアップやサポートです。我々の会社はスタッフ全員が演劇や音楽について何らかの専門性をもっていて、それらのスタッフが事務作業も兼任しています。ですから公演の集客や宣伝のこと、レコーディングにかかる経費のことなどの相談にも、専門的にケアすることが可能です。

 

—−練習できる場所があるというだけでなく、ふだんの活動についても専門的なアドバイスがうけられるのは心強いですね。

そうですね。支援や育成の場がないと、活動そのものをやめてしまうというケースも多くあります。間違いを恐れずにいうと、文化芸術は生きていく上で必須ではありません。衣食住が満たされた上での表現欲求です。しかし大阪市が支援や育成の場を設けているということは、大阪市が文化芸術活動をしやすいまちになっていくことを目指しているということ。その設置目的を理解し、実現していくことが役割だと思っています。

 

—−利用状況はどのような感じですか?

練習室は、仕事やアルバイトを終えてから来られる方が多いので、夜の区分は9割近く埋まっています。吹奏楽の練習や、舞台公演のリハーサルなどの利用も多いですね。昼間は地域のサークル活動の利用なんかもあります。公演も週末はほぼ埋まっています。音や声を出せる練習場所が少ないので、兵庫や京都からも来られます。

 

—−民間の貸しスタジオではなく、公的な施設で演劇や音楽の練習をできる場は少ないように思います。地域の方への浸透度はいかがでしょうか?

まだまだですね。名前からして「芸術は自分には関係ない」と思われてしまうみたいです。区役所と協力して、回覧板に旭区民の初回無料キャンペーンを掲載するなど、なるべく知ってもらえる努力をしています。意外と「楽器やってるよ」という方とか地域には多いはずなんですよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

旭区民センター、旭区図書館と同じ建物の中にある「大阪市立芸術創造館」。 稽古場や音楽スタジオ、ホール、レコーディングスタジオを備えている。

 

文化の担い手と受け手を、フェスでマッチング。

—−相談やバックアップのほかに、施設として取り組んでおられることはありますか?

自主企画として指定管理者になった当初から行っているのが、「ワークショップフェスティバル・ドアーズ」です。ワークショップの見本市と言っていて、2007年からスタートしました。これは前館長を務めておりました小原啓渡の立ち上げた企画で、当時僕はスタッフとして関わっていました。今年(2017年)で11年目になり、今年は125講座が行われました。

 

—−125講座も!すごいですね。ドアーズを開催されるのは、どのような目的があってでしょうか?

500円で90分のワークショップが受講できるのですが、参加者には500円で一度やってみたかったことに気軽にトライできますし、講師側は自分の活動をアピールすることができます。文化の受け手(受講者)と、担い手(講師)をつなぐ取り組みです。

 

—−受け手と担い手、どちらにもメリットがありますね。

受講者には新しいことに挑戦するハードルを下げられますし、講師はワークショップの訓練にもなり、お客さんになり得る人と出会うことで普段の活動を宣伝でき、活動の継続にもつながります。
またワークショップを集めて一覧で見せることで、大阪市にはこんなに面白い活動をしている人がたくさんいるというアピールにもなります。

 

—−たしかにドアーズのプログラムを拝見すると、大阪でこんなにたくさんの人が表現に関わっている人がいることが、一目でわかりますね。

そうですね。ドアーズは地元の受け手と担い手をつなぐ仕組みです。最近は他府県からの視察や依頼も多くあり、今年は初めて西宮市でも実施したのですが、その際にお伝えしたのは、あくまでも「西宮バージョン」として開催してくださいということ。大阪から講師が来て、やって、帰った……では、地元になにも残らないので。これまでのノウハウはお伝えして、西宮で活動している人を集めて開催してもらいました。
ドアーズの開催を通じて、西宮市の文化担当の方と西宮で活動している方がつながるので、地域のなかで文化関係のネットワークが広がっていけば良いと思います。

ドアーズで開講されるワークショップは約100種類。子供からお年寄りまでさまざまな年代が受講し、毎年開催を楽しみにしているリピーターも多い。

 

日本では珍しい、オリジナル作品のロングラン公演。

—−重田さんが舞台や演劇に関わるようになったきっかけを教えていただけますか?

中学で演劇を始めて、大学時代には役者のほかに舞台監督もするようになりました。卒業後はフリーターをしながらたまに来る舞台の仕事をしていたのですが、1999年にオープンした「アートコンプレックス1928」に出会い、仕事をさせてほしいと頼んでアルバイトから始めました。それまではいわゆる技術系のスタッフでしたので、初めて企画制作やプロデュースを学びました。
僕が入った当初、「アートコンプレックス1928」は大阪毎日新聞京都支局を改装して、貸しホールを運営していました。2012年からはその会場で、オリジナル作品として製作したノンバーバルパフォーマンス「ギア」をスタートさせることになりました。こちらは所属するARTCOMPLEXグループの事業として統括プロデューサーの小原啓渡のもと、僕もいちスタッフとして関わっております。動員が13万人、5800回を超えるロングラン公演を現在まで行っています。

 

—−ロングラン公演というのは、日本では珍しいのではないですか?なぜロングラン公演を企画されたのでしょうか?

プロデューサーの小原が企画時に考えたことですが、貸し劇場での公演は、面白い作品も面白くない作品も、期間がくれば終わってしまいます。評判を聞いて観たいと思ったときにはやっていないし、劇団も常に新作を作り続けなくてはなりません。そこでコンスタントに面白いもの・いいものを提供するために、作品が当たればずっと公演を続けるロングランのシステムを目指すことになりました。そのためにオリジナル作品を作り、試作公演を行い、観客の感想をもとに改善を繰り返し、2年かけて仕上げました。

 

—−ロングランになり得るクオリティまで高めるために、2年の月日が必要だったのですね。作品のジャンルに、ノンバーバルパフォーマンスを選ばれたのは、どんな理由だったのでしょうか?

劇場が作品をつくるからには、観る観客を選ばないもの、誰でも観られるものにしたい、という思いがありました。ノンバーバルパフォーマンスとは、言葉がいらないパフォーマンスです。言葉を使わないので、小さい子も年配の人も海外の人も、誰でも見ればわかります。

 

—−確かに、誰でも観られる演劇というのは、少ないですね。

子供ができて舞台を観に行かなくなったという人も、周りに多くいます。また外国人観光客が日本に来たとき、歌舞伎や能がいつも観られるわけでなく、貸し劇場の公演は当たり外れがあります。

 

—−京都に来る海外からの観光客も、視野に入れておられるんですね。

そうですね、観光案内所や宿泊施設に、英語のパンフレットを設置しています。実は京都は、夜の観光コンテンツがないというのが今ネックなんです。昼間は寺社仏閣や美術館、博物館がありますが、17時には閉まってしまいます。夜に文化やアート好きの外国人を楽しませるものがなかったのです。それが理由で京都に宿をとらないという傾向もありました。ですから「ギア」は、平日の夜も公演を行っています。

(Photo by Kishi Takako)

「ギア」はセリフを使わず、マイム、ブレイクダンス、マジック、ジャグリングによる迫力のパフォーマンスで感動のストーリーを描く。

 

新陳代謝を支え、ジャンル全体の盛り上がりに。

—−重田さんがこれからやりたいこと、かなえたい夢などをお聞かせください。

ジャンル全体を盛り上げてきたいと思います。演劇やダンスに接する機会は、それほど多くはありません。小学校のときに学校で見た演劇や、大学の演劇部の友達に誘われて観た芝居がつまらなかったら、その人はもう2度と舞台を見ることはないでしょう。だから良いものに触れる機会を作りたいですし、舞台芸術のクオリティを下げたくないと思います。すごい!といえるレベルの人が減っていくのも防ぎたいですね。そういう存在を見て、やりたいという人が増えるので。
それから、関西の役者やダンサーが活躍できる場を作らないと、良い人がどんどん東京やほかに流出してしまいます。成長してやっとこれからというときに「東京に行きます」となると、関西はいつまでも中ぐらいの人しかいないという状況になってしまいます。活躍できる環境を整備していくことも、プロデューサーや企画制作の仕事だと思います。

 

—−演劇やダンスなどのジャンルの活性化には、どんな道があるのでしょうか。

問題解決をセットで考えないと、続かないのでは、と思います。例えば「ギア」は、京都が抱える夜の観光コンテンツ不足や、外国人観光客に対するコンテンツ不足という課題を解決しています。はじめるときはもちろん「こんなことやりたい!」という想いで良いのですが、課題を解決するものでないと需要として成立しにくいかなと思います。

 

——民間のノウハウを公共に生かすということをやって来られて、それぞれの役割については、どうお考えですか?

想いを持って新しいものを立ち上げるのは、民間でないと難しいと思います。公の役割は、想いを持って立ち上げたものが続くように、支援すること。現在はかつてのブームを担った劇場が、老朽化やオーナーの高齢化などで閉めざるを得ない時期にきています。一方で、そこで育った新しい世代が活動し、新陳代謝が起こっています。その代謝を続けていくためにも、若手を途絶えさせるわけにはいかない。だから支援やサポートが必要なんです。

 

—−ということは、ますます芸術創造館の担う役割は大きいですね。

そうですね。大阪は市立の劇場を持っていません。公共劇場をもたない都市なんです。その中で活動の支援と同時に、多くの人が芸術と接する機会を増やし、演劇や音楽への入り口を作っていけたら良いですね。

 

 

 

 

 

 

 

芝居やライブ、映画のフライヤーが並ぶ「大阪市立芸術創造館」のエントランス。利用する劇団から、公演などに関する相談を受けることも。